〔第61回解読文・解説〕

解読文

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解説

借用証文を取り上げます。すでに証文は何度もテキストとして紹介していますが、実は古文書を読む上で重要なエッセンスがたくさん詰まっているのです。これらは自宅や地域に多く残されている非常に身近な文書です。もう慣れた、とおっしゃらずに丁寧に見ていきましょう。

内容はごく一般的な借用金の証文です。借りる金額・期間・利息など証文に必要な約束事はすべて記されています。25両を借用し、月1分5厘の利息をつけて翌7月中に返済する旨が記されています。これだけならば何の変哲もない証文だ、といえます。

しかし、注目すべき箇所は別にあるのです。それは文字ではなく、文書全体です。全体をじっくり眺めた時にひときわ目を引く箇所があります。それは大きく破れている2箇所の部分です。虫に食われたのか、あるいは人工的に破いたのか、不思議な破れ方です。この破れが今回のポイントです。よく観察してみましょう。

文書の上(天部)のほうに開いている曲線的な穴は虫に食われた痕です。よく見ると線対称になっていませんか。そうです、この部分は短冊状に折った紙の上からの虫食いなのです。折りたたんだ紙を広げてみるとテキストのようになります。では大きく破れている部分はどうでしょう。よく観察すると、どちらもその周辺に印影が見えます。どうやら押印してあった部分が破れているようです。これは破れた部分の不自然さから見ても人工的に破いた痕です。この破れは、返済が完了し、この証文が不要(反故)になったので、押印部分を破りとってその証明をしているのです。

借用契約を終えた証文であることを見分けるポイントは、このテキストのように押印部分が破り取られている、墨を塗ってつぶしている、文書全体に大きく×印などの抹消線がある、などです。

文字をじっくり読んでいくことも大切ですが、少し紙から目を離して全体を見てみましょう。文字で表現されていなくても、実に重要な情報を文書全体が発していることがわかってきます。